ヤッスホユック
大村 正子 アナトリア考古学研究所研究員
第9次ヤッスホユック発掘調査(2017年)
第9次ヤッスホユック発掘調査は、日本学術振興会科学研究費基盤研究(A) (25257013 H25~H29)の助成を受けて、2017年9月11日から11月6日まで実施されました。
発掘調査区(グリッド)
Area 1: E8/d7, E8/e7, E8/f7, E8/g7, E8/h8, E8/c9, E8/c10, E9/c1 (図 1)
これらの中E8/f7 と E9/c1は 2017年度に新たに設定されました。
2009−2016年度の調査では遺丘の頂上部Area 1において、第Ⅰ層:鉄器時代の建築層の下に第Ⅱ層:中期青銅器時代の大型建築の礎石群、および第Ⅲ層の前期青銅器時代の王宮址の中央部が発掘調査されました。磁気及びレーダーによる地中探査とこれまでの発掘調査の結果から、この王宮址は現在までに発掘されている区域からさらに東西南北方向に広がっていたことは確実です。ただし、西側部分では鉄器時代の建築に大きく壊されており、非常に悪い保存状態です。さらに、この王宮址の下には、いま一つ大火災層が存在することが観察されています。また、第Ⅰ層の後半期の後期鉄器時代には遺丘全体を覆う城壁を持つ都市が存在した可能性が非常に高いと考えられます。
2017年度の発掘調査は、2009−2016年に発掘された後期鉄器時代の大型遺構群の連続部を明らかにするとともに、より下層の中期・前期鉄器時代の遺構の調査を進め、ヤッスホユックにおける鉄器時代の文化編年を明確にすることを目的に、調査を行いました。また、新たに設定したグリッドで第Ⅲ層前期青銅器時代の火災層まで掘り下げることを目指しました。
E8/d7, E8/e7, E8/f7 の3グリッドでは、2016年度に続き、上記の大型遺構群の直上にある遺構群の調査を行いました。ここでは、2013年度に東隣のE8/d8, E8/e8 グリッドで発掘された建築遺構の延長部と考え得るR52, R111, R126 およびR54を検出しました。
これらの遺構群の調査では青銅製フィブラ、鏃、焼成粘土製錘が検出されました。また、R111を壊しているピットP290からは、片手付き水差しや鉢型土器、またP325からは、両手付き壺型彩文土器が出土しています。
E8/g7グリッドで2016年度に確認された後期鉄器時代のR112, R114を取り外した後、グリッドの北東隅部で、焼成粘土製の側壁をもつ炉が四つ検出されました(H36, H37, H38, H39)。しかし、これらの炉に関連する建築遺構は検出されませんでした。 これらの炉よりも下の層に属すると観られる北西隅のR110は、E8/d7〜E8/f7に検出されたR52, R54, R111, R126と同一層に属すると考えられました。
E8/h8グリッドで2016年度に確認されたR35は、後期鉄器時代の大建築の一部を利用して建てられたR52, R54, R111, R126, R110と同時期の遺構です。さらにW331はR35に付加して、使用されていたものと考えられます。このW331を壊し掘られたピットP305からは、犬の骸骨とともに象牙製の印章、焼成粘土製の錘、彩文土器片等が出土しました。
E8/c9, E8/c10グリッドでは、概ね5期に分かれる建築遺構が発掘されました。上から4期は後期鉄器時代、最下層は中期鉄器時代の遺構と考えられます。E8/c9では上から順にR116;R117、R16;R121;R125, R127; Ins40, P313が、E8/c10では R119, R123; R124; R120; R70, R128, R129; P309が確認されました。これらの中で、R70, R125, R127, R128, R129は同一建築に属するもので、後期鉄器時代の大遺構群の一部を形成しています。この遺構群よりも上の層に属するR116;R117、R16; R121; R119, R123; R124; R120 は、リフォームも含め、3期に分けられますが、後期鉄器時代の後半に属すると考えられ、特にフリュギア的な遺物が見られます。中でも、青銅製フィブラは典型的なフリュギア様式を示しています。
また、R120は 独立した掘り込み式遺構で、北壁に作り付けられた炉H34には、壁H325に開けられた煙突状の通気口が確認されました。また、壁の漆喰を剥ぐと、その漆喰に埋め込まれていた隠し棚の様なニッチ状の設備が南西隅に確認されました。このR120 の覆土からは摺石と共に羊頭型の装飾付き彩文土器把手が出土しています。
E8/c9, E8/c10で確認したR70, R125, R127, R128, R129は、これまでに北側の12グリッドで発掘された大型遺構群の延長部で、この遺構群がさらに南及び東西に広がっていることが示唆されました。E8/c9, E8/c10のこれらの遺構は、断片的に残る床面と壁として確認されましたが、上部構造がわずかに残るだけのこれらの壁は、深く掘られた溝に詰められた礎石として確認されました。
一方、この遺構群のR129及びW340を外した下層で確認されたP309からは西のリュディアの影響が推定される2個のスカラボイドが出土しました。
さらに、R127およびR125を外した下の層で確認されたP313は、側壁が波打った様な不規則な形のピットです。まだ完堀されてはいませんが、その内部北側に帯状に投棄されたと考えられる石群があり、 また、日乾煉瓦で取り囲まれたIns40が、P313の中央部を掘り込み築かれていました。Ins40とP313から出土している土器片は、カマン・カレホユックIIc層と平行する中期鉄器時代に位置付けることができます。
地中探査
2017年度には、遺丘頂上部の北部分で行われた地中探査では、Area 1で発掘された遺構群と遺丘周縁部に平行に位置する遺構群との間に、約20m幅の間隙が存在することが観察されました。町を取り巻く大通りの可能性も考えられます。
シーズン中に保護屋根を架けたままにしていた区域(1200㎡)に加えて、その西側及び南側の1,000 ㎡の発掘区に保護屋根を架け、2017年度の発掘調査を終了しました。
第9次ヤッスホユック発掘調査(2017年)を開始しました
発掘作業の様子
第9次ヤッスホユック発掘調査は9月11日に開始されました。
今期の調査では、遺丘頂上部Area 1の西側グリッドでは、第Ⅰ層鉄器時代の調査を継続、完了させ、第Ⅲ層の火災を受けた大遺構の下に存在すると見られる第二の火災層の検出を目指します。 また、南側のグリッドではやはり鉄器時代の調査を継続した後、その下の第Ⅲ層の大遺構の南への連続部、および遺構の外郭部の検出を目指します。
発掘作業の様子
今期の発掘調査は、11月4日まで行う予定です。