第1次ヤッスホユック発掘調査(2009年)
大村 正子 アナトリア考古学研究所研究員
今年度発掘終了時
2009年9月11日〜10月9日、ヤッスホユックにおける第1次発掘調査が行なわれました。本年度は2007−2008年に磁気探査で遺構の存在が検出された遺跡頂上部で10x10mの発掘区を二つ(E8/f9, E8/f10グリッド)設置し、発掘を開始しました。
この二つの発掘区では四つの異なる建築層が確認されました。第3建築層として検出された石壁は、遺跡のかなり広い範囲に広がっていたと思われる大建造物の一部と見られます。幅130cmのその壁は、壁の幅に合わせて浅い溝を掘り、その両淵を30cm前後の中型の石を並べ縁取りし、その内側に小形の石を詰めることによって高さを調整した上で、大形のブロック石を積み上げ、ブロック石の間にも小形の石が詰められています。同様の構造をもつ壁遺構はカマン•カレホユックのⅡa層でもみられます。この大遺構を 壊す形で第1、第2建築層の半地下式遺構が出土しました。第1〜3建築層は出土した土器片、小遺物から前1千年紀、鉄器時代に属すものと考えられます。
これらの鉄器時代の建築遺構はすべて、焼土層を水平に均した上に建造されていました。第3建築層の壁の直ぐ下に均された焼土層が見え始めたと同時に、日乾し煉瓦の壁の上端が検出され始めました。この日乾し煉瓦の壁のプランが、磁気探査で検出されている大遺構のプランと一致することが分かりました。すなわち磁気探査は上層の石壁からなる遺構ではなく、下層の焼土層の中の日乾し煉瓦からなる遺構を検出していたことになります。
今年度検出の炉
本格的な火災層への掘り下げは次年度以降になりますが、次年度以降の調査への指針を得るために、4番目の建築層である二つの日乾し煉瓦の壁(W19, W20)に囲まれた部屋(R8)の一部を掘り下げました。その結果、これらの壁は前面が化粧土で覆われ、230cm余りの高さで残っていることが判明しました。部屋の内部は、崩落した日乾し煉瓦混じりの焼土が詰っており、建物の上部構造のものと考えられる 梁や板状の炭化した木材が検出されました。また黒色の灰で覆われた床面上には独特の炉が検出されました。出土した土器片はほとんどが小さいものですが、スリップのかかった赤色磨研土器片で、 前2千年紀前半、特にアッシリア商業植民地時代に属するものと考えられます。ただし、土器片の中には胎土に植物繊維が多く混じった手づくねの土器も見られ、より古い前3千年紀の伝統を引いていることも考えられます。
ヤッスホユックの発掘調査は日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)の助成を受けています。